アカデミックデイ2015 お茶を片手に座談会 vol.2 レポート

2015.10.04

イベント

研究の話って、いまも昔も身近な場所でもされているんじゃないの? ~わざわざオープンって言わなくてもオープンなサイエンスについて考える~ 

 

 

科学研究をめぐって「オープンサイエンス」という概念が広がりつつ昨今。これからますますオープンサイエンスが進むと、社会と研究者の関係ってどうなっていくのだろう?100年先の未来、大学や研究者に求められる役割って何だろう? 

京都大学アカデミックデイ2015では、まずは100年前の社会と科学/社会と芸術の関係を振り返り、そこから現在のオープンサイエンスの取り組みの「さらにその先にあるもの」について考えてみました。

登壇者は、音楽史がご専門の大崎滋生さん(元桐朋学園大学教授 音楽学部音楽学科音楽学専攻 主任)、19世紀ドイツの科学と都市の関係を研究する櫻井文子さん(専修大学経営学部 准教授)、イギリスのスポーツ史がご専門の藤井翔太さん(大阪大学未来戦略機構戦略企画室 特任助教)、モデレーターは山田光利さん(学問の箱庭管理人 / Smips研究現場の知財分科会オーガナイザー)を迎え、座談会が始まりました。

市民には科学に関わりたいという気持ち、欲求があるのでは?

山田光利  学問の箱庭管理人/Smips研究現場の知財分科会オーガナイザー
山田光利 学問の箱庭管理人/Smips研究現場の知財分科会オーガナイザー

座談会の冒頭、モデレーターの山田氏は、「オープンサイエンスを推進してきたのはインターネットをはじめとする技術の進歩に加え、市民が税金という形で研究に投資した以上、研究成果の還元を求める社会情勢が背景にある」という一般的な見解に対して異議を唱えます。そもそも市民には科学に関わりたいという気持ち、欲求があるのでは? 

手に取ることができるのは「残ったもの、意識して残したもの」

また山田氏は、様々な研究に活用されている資料は「たまたま残ったもの、あるいはその当時の人が意識して残したもの」だけであり、いま身の回りにあるもの、興味があることを1人1人が見える形で残して未来の研究者に資料を届けていくこともオープンサイエンス、市民の科学への関わりと言えるのではないかと主張しました。これらの問題提起を受けて、登壇者3名から自己紹介および話題提供がありました。

大崎さんは音楽史の研究者としての立場から、「偉大な」音楽家の物語は全て「架空の物語」であると指摘しました。この「大作曲家中心主義」から脱却し、コレクターの不在から歴史に消えた優秀な音楽家や、「偉大な」音楽家の明らかにされてこなかった、あるいは誤解されてきた一面に目を向けて、より広い視野で作家とその活動を見る「全体音楽史」の重要性を説きます。

櫻井さんは、ヨーロッパには市民の寄付金でできた文化施設が多く存在する、ということに興味を持って研究を始めたそうです。市民による研究成果・文化の保存という観点からオープンサイエンスについて話します。

藤井さんは自らの軸となっている歴史学と同人活動に基づいて、コミケなどで販売される同人誌やニコニコ動画などに投稿される二次創作動画も、現代の文化を記録した資料として未来の研究者にとって貴重なものになりうると語ります。

科学や文化の歴史は市民によって作られる

大崎滋生 元桐朋学園大学教授 音楽学部音楽学科音楽学専攻主任
大崎滋生 元桐朋学園大学教授 音楽学部音楽学科音楽学専攻主任

議論の中心テーマは「研究に使える資料を後世に残すためには」「市民は何を求めているか」についてでした。例えば「アマチュアの創作活動を文化として残していくために何に気を付けているか」という山田氏からの問いかけに、藤井さんは「二次創作のジャンルは二度死ぬ。一度目はブームが終わったときで、二回目はファンの言説が消えたとき」と、ある作品が後世に残るためにはファンコミュニティの存在を大事にすべきであると語りました。

また、櫻井さんは「100年残る文化施設の裏には、自分たちがコミットした証拠を形に残したいという市民の強い意志がある」ことを指摘しました。こうした強い意志によって残された数々の文化遺産は、我々が科学と文化を支えてきたという共同体の自負を象徴し、近代のナショナリズムの隆盛に結びつくといいます。

大崎さんはその極みがドイツ中心の音楽史であり、残されたものだけを見て歪んだ歴史観を抱いてしまう危険性を指摘しました。研究の礎となる科学や文化の歴史は、文字通り市民によって作られるのです。

「科学が豊かな生活を約束してくれる」と市民が無条件に信じていた時代は終わった

櫻井文子 専修大学経営学部 准教授
櫻井文子 専修大学経営学部 准教授

白熱する議論の中、会場からも「大学の授業料や博物館の入館料はクラウドファンディングにあたるのか」「市民は日常生活のリスクに直接かかわる研究を求めている」といった質問や意見が飛び出しました。藤井さんは社会的意義が研究の価値と不可分になった現状をふまえつつ、研究者には専門性が妨げられない範囲で市民への説明責任があるとしました。

「科学が豊かな生活を約束してくれる」と市民が無条件に信じていた時代は終わったが、知りたいというモチベーションは変わらないと櫻井さんは言います。

さらに、大衆化した文化は市井に広がり、後世まで形を伴って残されるチャンスを得ますが、必ずしも正しい形で伝わるわけではないと大崎さんは指摘しました。

手元にある研究結果を10年先、100年先の人々が見られるように

藤井翔太  大阪大学未来戦略機構戦略企画室 特任助教
藤井翔太 大阪大学未来戦略機構戦略企画室 特任助教

座談会を通じて、市民が研究や文化において果たす役割や、研究者との関係が見えてきました。単なる知的好奇心から、あるいは文化を支えてきた跡を残したいという欲求が、時を超えて科学や文化を保存していく原動力となってきたようです。今日でも、こうした市民の意志によって研究の方向性が決定されることや、ときにはクラウドファンディングのような形で研究者が直接市民から経済的な支援を受けることにもつながり、研究や文化が市民と一体となって進められるものになりつつあります。

研究者はこれまで残されてこなかったものにも目配せしつつ、手元にある研究結果を10年先、100年先の人々が見られるように残していくことが使命であると言えます。「オープンサイエンス」の概念が単に当世代における学術的成果・文化遺産の市民への還元のみにとどまらず、世代を超えた情報の伝達という、より幅広い時間的スケールで捉えることのできる営みであるという視座がもたらされたという点で、意義深い座談会でした。

 

Reported by 倉田康平(アカデミックデイ2015学生スタッフ・京都大学農学部4回生) 

 

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