アカデミックデイ2017
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ゲノム編集で肉厚な真鯛、食べる?

研究者からの一言 ゲノム編集を使った品種改良について語りましょう。

概要

ゲノム編集は、遺伝子を正確に効率よく改変する技術で、品種改良への期待が膨らんでいます。
安全性や環境への影響等に加え、私たち人は食べ物としてどこまで生き物を改変してよいのでしょうか。
どんな条件が整えば受入れ可能でしょうか。
開発中の「ゲノム編集で肉厚な真鯛」を例に、みなさんとあれこれ考えたいと思います。

出展代表者

医学部附属病院 臨床研究総合センター
 佐藤 恵子 特任准教授

参加者

医学部附属病院 臨床研究総合センター
 佐藤 恵子 特任准教授
iPS細胞研究所
 鈴木 美香 特定研究員
大学院農学研究科
 木下 政人 助教
大学院文学研究科
 児玉 聡 准教授

関連URL

来場者より

世に出るで賞
意見を聞いてくれたで賞
世間の声を知ろうとしていたで賞
わかりやすかった賞
真鯛食べたいで賞
私も研究してみたいで賞
これからも研究をがんばってほしいで賞
食欲より知識欲賞
食糧問題の希望の光になってください賞
美味しそうで賞
ゲームじゃないよゲノムだよ!!賞
肉厚賞
ていねいな説明で賞
木を見て森を見ず賞
海洋高校生とのコラボで豊かに食事しま賞
たくさん議論できて良かったです賞
期待できる研究鯛賞

アカデミックデイを経ての感想

アカデミックデイ2017・勝手連ポスターへの訪問ありがとうございました。

 

20179月30日(土)の京大アカデミックデイ2017「研究者と立ち話」における私たちのポスター展示(「ゲノム編集で肉厚真鯛、食べる?」)では、多くの方々に足を止めていただき、ありがとうございました。

生命倫理勝手連は、生命倫理の課題について、どのような研究をどこまで実施してよいか、どの技術を何に応用してよいか、医療者や研究者はどうあるべきか、などを考えて提案する活動をしています。生命倫理の課題は、生命や生活に直結しており、研究の対象になったり、成果を利用したりする一般市民の意見を取り入れて反映させることは、研究の政策を考える上で必須です。しかし、とくに先端的な技術については、内容が難解ですので、まず内容をわかりやすく解説し、どこにどのような問題があり、どう考えたらよいかも示した上で、考えていただいて意見を聞かせていただく必要があり、これを実現するにはさまざまな工夫や問いかけるスキルが必要です。
勝手連では、ゲノム編集技術が社会でも関心を集めるようになった2015年頃から、遺伝子改変技術をどのように使用すべきかについて検討をはじめ、京都大学大学院農学研究科でゲノム編集技術を真鯛に適用して筋肉量を増やす研究をしている木下先生と意見交換をしてきました。安くておいしい真鯛を効率よく育成することができれば、消費者や生産者にとって大変オイシイ話であり、期待もふくらみますが、実際に口にするであろう市民の皆さんが、食品として受け入れるのか、食品としての魚の品種改良について懸念することや期待することは何かなどについて、なかなか直接、生の声を聴く機会がないことから、ポスター展示をして意見を聞いてみようということになりました。
当日は、木下、鈴木、佐藤がポスターの前でみなさんとお話しさせていただきました。お隣のブースは「イガイでトラフグを太らせる」の京都府立海洋高校の生徒さんたちによる展示で、魚を太らせるつながりということもあり貴重なご縁もいただきました。真摯に研究に取り組み、楽しそうに来場者とお話している姿を横目に、「今時の若者もよくやるじゃないか」と感心しました。
私たちのポスターを前に足を止めてくださった方には、まず「定食屋さんに入ったら、養殖真鯛とゲノム編集真鯛の2種類の刺身定食がありました。どちらも700円で、お刺身の量も同じです。どちらを選びますか」という質問をしました。その後、遺伝子とは何か、品種改良と遺伝子組換えの歴史、ゲノム編集の技術的な説明をしたところで、再び同じ質問をお聞きし、さらにゲノム編集真鯛で解決しようとしている社会的な課題、期待できること、懸念されることと考えられる対処方法などを解説し、再び「養殖真鯛とゲノム編集真鯛のどちらを選びますか」をたずねました。
みなさんからの質問にもお答えしたり、意見交換したりしながら、質問に対するご意見をシールで表示していただきました。
解説を聞く前から、「ゲノム編集真鯛」を選ぶ人が思いのほか多くいて、私たちとしては意外な感じを受けましたが、その理由は、「定食屋さんにあるということは、安全だろうから」、「珍しい食べてみたい」というものが多く、なるほど、でした。一方、養殖真鯛を選んだ人は、「ゲノム編集が何かよくわからないので気持ち悪い」という理由を挙げた方が多くおられました。
技術についての解説を聞いた後は、「ゲノム編集真鯛を選ぶ」という人がさらに増えました。技術について理解が深まったからでしょうか、ゲノム編集真鯛を選んだ人の意見には、「遺伝子のどこを変えたかがピンポイントではっきりしているから」、「遺伝子組換え食品のような気味悪さはない」、「外から遺伝子を入れていないと知り、遺伝子組換え技術とは違う印象をもった」というものが聞かれました。一方、ゲノム編集真鯛を選ばなかった人の中には、「なんであれ、人が遺伝子を変えるのはいやな感じ」、「そこまでして鯛を食べなくてもよい」など、食べ物そのものに関する意見を述べる人もいました。
その後、ゲノム編集真鯛により解決しようとしている、社会的な課題、期待できること、懸念されることとその対応などについて解説したあとのご意見には、どちらの鯛も安全であるなら「どちらでもいい。でも仮に、ゲノム編集真鯛を食べる方が、社会の課題を解決するのに貢献するなど付加価値があるなら、むしろそちらを選ぶ。」、「消費者として選択肢が増えるのはよいことではないか」といったご意見もありました。また、「技術そのものの善し悪しというよりも、その技術をめぐる経済的・倫理的な側面から判断すると思う」というご意見もありました。
企画をした当初、私たちは、日本では遺伝子組換え食品に否定的なイメージを持つ人が多いため、ゲノム編集真鯛も受け入れる人の方が少ないと予測していたのですが、「珍しいので食べてみたい」という動機や「改変したところがわかるので不安はない」という理由で受け入れる人が予想していたよりも多かったことは意外でした。
ゲノム編集技術に対する懸念事項としては、「何をどう編集しているのかを、まずは情報提供してほしい」、「食品として世に出す際には、"ゲノム編集をした鯛である"という説明(表示)はしてほしい」、「誰が何をもって安全と言っているのかを明らかにしてほしい」、「データと、そのデータを出した研究の設計の詳細まで公開してほしい」という意見、「動物が食べて大丈夫だった、千人の人が食べて大丈夫だった、という証拠もほしい」という意見も出ました。
一方、話が弾んだ方との間で「鯛の遺伝子に、ウナギの遺伝子をいれて、ウナギの味がする鯛を作るのはどうか」という問いかけに対しては否定的な意見がみられ、もとの生物からあまりにもかけ離れたものは受け入れがたいようでした。
また、ゲノム編集真鯛に肯定的な意見を持つ人は、現在私たちが食べているものの多くが人が品種改良したり管理した結果であることを理解し、ゲノム編集は、時間がかかっていた育種の過程を短縮する技術であると理解しているようでした。
みなさんの意見を通じて見えてきたことは、肉厚の鯛を誰がどのような目的でどうやって作るのか、なぜ肉厚にする必要があるのか、誰の利益を考えて開発しているのか、安全確保の基準づくりや、どのような設計でどのようなデータで安全性を判断するのかも含めて安全性を担保するしくみそのものについて、検討過程も含めて市民がわかるように、研究者・生産者側がつまびらかにすることが重要であるということなどです。
また、新しい技術を受け入れるかどうかは、技術そのものの科学的な説明やデータに基づく安全性の話だけではなく、食べ物として利用する生き物への考え方を含めた食べ物のありよう全体と、その中で、この技術をなぜ使う必要があるのかという目的、社会の中における新しい技術を用いて産生する食べ物の位置づけを示し、共有することが大事であることを実感しました。これは言いかえれば、「食べ物について何をよしとするか、人間としてどこまでやってよいか」を社会全体で考えるということであり、それを実現すべく中心で活動するのが私達の役割でもあります。来場者の中には、私達の背景がさまざまであることに興味を示し、生命倫理学の重要性を理解してくださる方も多く、ありがたかったです。
ゲノム編集に限ったことではありませんが、新しい技術と社会の関係を考えたり、政策を策定する場合は、研究のコミュニティが市民の要望や懸念を把握した上で、多くの人に了承してもらえるような方向性と解決策を提案することが必要であり、アカデミックデイで市民のみなさんと交流できたことは、私たちにとって大変貴重な機会となりました。みなさんにとっても、有意義な対話となっていれば嬉しく思います。
足を止めてくださったみなさまには、あらためて感謝申し上げます。

 

 

 

フォトギャラリー

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研究者の本棚

本出展の参加研究者がお勧めする本をご紹介。

= 取り扱いあり

今の仕事(研究、進路)を選ぶきっかけになった本

現代倫理学入門

加藤尚武/講談社

学部生のときに読んで倫理学を学ぶことにしました。
現代の社会的問題を考える上で哲学が重要であることを教えてくれる本です。

今ハマっている本(誰かとこの本について話したい)

137億年の物語 : 宇宙が始まってから今日までの全歴史

クリストファー・ロイド/文藝春秋

地球が誕生して、生物が生まれ、人間が出現して、文明も争いも起り・・という物語が「続き物」として語られています。
ページを開くだけで時空を超え、好きな時と場所に旅ができる、とても素敵な本です。

若者にお勧めしたい本

マンガで学ぶ生命倫理 : わたしたちに課せられた「いのち」の宿題

児玉聡 文.、なつたか 漫画/化学同人

再生医療やら脳死臓器移植やら、「夢の医療」などと報道されるけど、そんなにバラ色なの?
そもそも、脳死ってなんだっけ?
生き死にの問題は、身近なことであり自分で考えなくてはならないのですが、難しいし辛気くさいし、ハードルが高いですね。
この本は、女子高生の日常を軸にして、脳死や生殖医療、クローン技術など、生命倫理の問題を学びつつ、考えられるように工夫されています。
是非手にとってみてください。

自分の研究に関連して紹介したい本

ゲノム編集の衝撃 : 「神の領域」に迫るテクノロジー

NHK「ゲノム編集」取材班 /NHK出版

ゲノム編集の技術の解説、品種改良や医療への応用、研究の現状、技術の問題点などがわかりやすく説明されています。