「花の香り」で盛り上がる宴会

宇治キャンパスは面積21万平方メートル超と、甲子園球場約16個分の敷地面積を持つ。構内には建物も多いが緑も豊かで、季節ごとに様々な植物が花を咲かす。初春にはロウバイやジンチョウゲがよく香るが、12月の終わりから1月にかけてはヒイラギナンテン、ビワなどが花を付けるという。植物好き3人は杯を重ねるごとに、キャンパス内にひっそりと根を張る植物の「詳しさ」を競い始めた。そこから話が広がり、興味はビワの花の香りに集約した。3人とも、ビワの花がセンター試験の季節に咲くこと、特徴的な香りがあることは知っていた。宴会の席で3人は、「あのニオイはすごく重たい香りで、何の臭いなんだろう?」とひとしきり議論した。(主に地中海近辺で作られるアニス酒にいれる植物の)アニス系?どんな化合物が含まれてるんだ?といった様に盛り上がった。

冬に見られるビワの花(左)と、宇治キャンパスで花をつけるビワ(右)
冬に見られるビワの花(左)と、宇治キャンパスで花をつけるビワ(右)

 

一般的に研究者が集まった飲み会は、自由闊達な議論で盛り上がることが多い。だが、飲み会の席で出るアイデアは荒唐無稽なことも多く、夜が明けると「酒の席での話題」で終わってしまうことも少なくはない。しかし、この3人はそれだけで終わらなかった。肥塚がすぐにビワの花の香りを調べ始め、飲み会のあった週末にはビワの花の香りを分析し終えてラフなデータを柘植と古田に送ったのだ。肥塚は、「ビワの花のニオイがそれほど強いとは知らなかったんですが、言われると確かに強い香りだなと思って。何かしらあるかな、という感覚があったのと、せっかちなんでコレだと思ったらすぐにやらないと気が済まなくて」と話す。

柘植と古田は、翌週には出てきたクロマトグラフィーのデータを見て、「もうやっちゃったの」「早い」「すごいなあ」と感心した。そして3人は「この香りの物質には何かあるかもしれない」と感じ、ビワの花の香りをテーマに真面目に取り組むことで話が進んだ。幸いなことに、サンプル(試料)はキャンパス内にある。柘植は、「徒歩圏内にサンプルがあるのは大きい。夜の8時くらいになってからでも、必要なら取りに行けますから。ある年は、園丁さんが花を全部切っちゃったことがあったんです。切らないで下さいってお願いしたら、翌年からは大事にとっておいてくれて。ありがたかったですね」と、研究に着手した当時のことを回想する。