2015.02.23

夢を重ねて、場のデザイン

 門内研究室が洛央小学校のブックワールド改装に関わることになったきっかけは、京都市修徳学区の自治連合会の総会で学生たちが行った、まちの将来像に関する「寸劇」仕立てのプレゼンテーションだ。若い学生の発想で描く、30年後、100年後の京の町。それを見ていた洛央小学校の森江里子校長が感激し、後日、門内教授にブックワールド改修を依頼することになる。依頼を受けた教授は、すぐさま「小学生といっしょならやる。」と返答した。そのとき教授の頭にあったのは、ドイツの小学校で行われていたLehrbauspiele(レール・バウ・シュピーレ)、つまり建築を遊びながら学ぶという教育手法だった。ドイツの小学校では、自分の住んでいる町や家を学習の題材にしている。建築や都市を学ぶのは、人間が生きるための基本であるとの考えからだ。

 こうして2013年8月、洛央小学校の6年生93人全員と先生たち、そして門内研究室による8ヶ月に及ぶ改修プロジェクトが開始された。まずは、学校の先生たちだけでブックワールドの問題点をあぶりだすワークショップを行う。次に、6年生との初めてのワークショップ。門内教授は、「本を読む場所ではなく、○○できる図書室を作ろう。」と子どもたちに呼びかけた。そして海外の斬新な図書室の事例や門内研究室で設計した新しい図書室のモデルを見せると、子どもたちの表情が変わった。「何でも好きなことを言っていいんだ。」スケッチブックにはありとあらゆる夢の設計図が描き出された。

 2回目のワークショップは3日後の授業参観日に合わせて行われた。子どもたちの保護者にもこのプロジェクトを理解し参加してもらうことが、ブックワールドの成功の鍵の一つとなるからだ。タイトな時間の中で門内研の学生たちは、保護者向けのニュースレターや、ワークショップで使う模型キットの制作に力を注いだ。当日子どもたちは9つのグループに分かれ、それぞれ実際の図書室の30分の1の模型を作成。「アスレチックのような図書館」「水と遊園地の図書館」など、子どもたち自ら保護者の前で作品のコンセプトを発表した。

模型を制作する6年生たち [写真提供: 門内研究室]
模型を制作する6年生たち [写真提供: 門内研究室]

 彼らの自由闊達なアイデアを、次回のワークショップに向けて模型に落としこむのが研究室の学生たちの重要な仕事だ。門内教授は「子どもたちの案を取捨選択するのではない。多様性を残しながら統一感を出すこと。」と指示した。同じものに、異なるもののイメージを重ね合わせる。そうすれば、子どもたちは、新しい図書室に自分たちのアイデアの痕跡を見つけることができる。

 10月の3回目のワークショップまでに研究室が制作した3つの模型の縮尺は10分の1。「通常は作らない」という大きさの模型を準備したのは、全体を捉えると同時にぎりぎり「実際に中に入れる」から。子どもたちは模型を壊さないように足を踏み入れ、改善点やアイデアを付箋に書いてその場所に貼り付ける。その表情はまるでプロの建築家のようだったという。

 11月に行われた最後のワークショップで、アイデアをつめ込んだ模型はついにひとつになった。その後、下級生も参加した実物大のサンプルを使っての机や椅子の選定作業などを経て、ついに2月着工。改修工事は授業のない土日に行われるため、月曜日に登校した子どもたちは自分たちの夢が少しずつ形になっていくのを目の当たりにした。2014年3月18日、卒業式の2日前に行われた完成記念式典のあと、子どもたちは気に入った椅子に座ったり、てんとう虫テーブルの穴の中に入ったりと、思い思いにブックワールドを楽しんだ。そのとき彼らが書いた「自分たちがデザインしたブックワールドが残るのでうれしい。」「夢はかなうことがわかりました。」という感想に、門内研究室は手応えを感じた。

 こうした子どもたちの言葉からも、デザインプロセスの経験がブックワールドという新しい学びの場のデザインを可能にすると同時に、子どもたち自身の学習と成長を促し、彼らの創造力を育む上で大きな役割を果たしたことがわかる。

10分の1模型を使ってのワークショップ [写真提供: 門内研究室]
10分の1模型を使ってのワークショップ [写真提供: 門内研究室]