2019.03.29

日本のどこかが豪雨に見舞われた時、被災地に向かう研究者の姿がある。そのうちの一人である京都大学防災研究所の中北英一教授は、日本で豪雨災害の研究者と言えば、真っ先に名前が挙がる存在だ。「ゲリラ豪雨」と呼ばれる局地的な豪雨に中北教授が出会ったのは、2008年夏。神戸市内を襲った豪雨で、のどかな川が急激に荒ぶった。濁流により幼稚園児を含む5人が死亡。「5分でも早く避難情報が出せていたら-」。その思いが、局地的な集中豪雨の発生予測という難題に挑ませることになった。

ゲリラ豪雨との出会い

晴れていたのに、突然雨雲が立ち込めて激しい雨に見舞われた-。そんな経験はないだろうか。集中豪雨やゲリラ豪雨と呼ばれる局地的な大雨は、いま日本各地で河川の氾濫、そして地滑りなど大きな被害をもたらしている。 “ゲリラ豪雨”という言葉が社会に広く知られる前から、局地的な豪雨の発生メカニズム解明に挑んでいるのが、中北英一教授だ。2004年に工学研究科都市環境工学専攻から着任。水の循環を工学の視点から研究する“水文気象工学“の確立を目指した。

ゲリラ豪雨の発生について話す中北英一教授。一般の人にもわかりやすく、を心がけている。
ゲリラ豪雨の発生について話す中北英一教授。一般の人にもわかりやすく、を心がけている。

きっかけは、2008年7月に神戸市の都賀川(とががわ)で起きた災害だった。午後2時過ぎ、直前まで晴れていた空に積乱雲が急激に発達し、前が見えなくなるほど激しい雨が降り始めた。その4分後には川が急激に増水。遊歩道に濁流が流れ、あっと言う間に歩道上の人々を押し流し、5人が亡くなった。発生の一ヵ月後、中北教授はその現場を訪れた。のどかな都賀川の遊歩道では、住民が散歩を楽しんでいる。「その時、わずか10分で川の水位が1.34メートルも上昇しました。流された人は、おそらく逃げる間もなかったでしょう。」

ゲリラ豪雨が生まれるもとになるのは、積乱雲の発生だ。これが急激に発達して、強い雨をもたらす。降り始めてから逃げようとしても、間に合わない場合もある。ところが都賀川の災害後、当日の気象レーダーを調べたところ、中北教授はあることに気付いた。それは、降雨の約30分前に積乱雲となる小さな雲ー“ゲリラ豪雨のタマゴ”が存在していたのだ。「この豪雨のタマゴを探知できれば、予測につなげられるのでは」。それ以前は局地的な豪雨は災害としての認識が薄かったが、この悲劇をきっかけに「メカニズムを解明して予測につなげよう」と、中北教授ら気象や土木工学、電波工学などの研究者たちが立ち上がった。

まず始めたのは、台風や豪雨の被害が多発する沖縄での実験だ。CCDカメラを搭載した観測装置「ビデオゾンデ」を用い、プロジェクトチームとともに観測実験に乗り出した。 しかし、突然メカニズム発生の研究に着手したわけではない。それまでに、下地となる基礎的な研究が進められていた。