2015.12.24

文部科学省による「研究大学強化促進事業」の一環として、京都大学が実施している「『知の越境』:融合チーム研究プログラム SPIRITS*」。平成25年度採択プロジェクトの報告書をまとめるにあたって、大きな実を結んだプロジェクトの中からお二人の研究代表者を招き、対談形式で京都大学の研究力などについて語り合ってもらった。

対談インタビューに登壇するのは、SPIRITS学際型融合チーム研究の村瀬雅俊氏(基礎物理研究所)と国際型融合チーム研究の河野泰之氏(東南アジア研究所)。フィールドが全く異なる研究者があいまみえたとき、無秩序の中に秩序が見えてきた。

*SPIRITS:Supporting Program for Interaction based Initiative Team Studies

SPIRITS対談

——今日はお忙しい中、ありがとうございます。まず、 自己紹介をお願いします。

村瀬雅俊:基礎物理学研究所の村瀬です。幸い異分野の先生と出会う機会が多く、そのおかげで「未来創成学国際研究ユニットの設置」が実現しました。

河野泰之:東南アジア研究所(東南研)の河野です。僕の専門は農業技術ですが、文理融合の東南研では20 人程度の教員が自然科学も人文科学も、社会科学もやる必要があります。私の場合は農業だけではなく林業や水産、あるいは森林保全も。最近では農村社会や農業発展、農業開発、あるいは自然資源管理の問題などですね。僕自身、以前から様々な分野の方と話したりプロジェクトを手がけたりするという環境で育ってきました。昨年度から部局長になり、他の部局長と頻繁に交流しています。会って議論する機会が多く、色々な部局の先生と知り合いになれるチャンスと考えています。

——そういったつながりが、より大きなプロジェクトを形成するきっかけになりますね。

河野:そうなんですよね。部局長のつながりはすごく大切。普段は事務的な話をしていることが多いのですが、研究推進においては、いざという時には大きな力を持って機能しますね。

河野泰之氏(左)、村瀬雅俊氏(右)
河野泰之氏(左)、村瀬雅俊氏(右)

採択プロジェクトについて

——SPIRITS は、京都大学が文部科学省の「研究大学強化促進事業」に採択された時の、目玉プロジェクトです。いま日本で重要視されている国際化という点から「国際型」、誰も手がけていないことにあえてチャレンジする「京大らしい」パイオニア精神という点から「学際型」、ふたつの枠を作りました。

河野先生は国際型、村瀬先生は学際型で、課題が採択されました。河野先生は「東南アジア研究のための国際コンソーシアムSEASIA の始動」、村瀬先生は「統合創造学の創成-市民とともに京都からの発信-」という課題です。それぞれ、どんな内容だったのかを簡単に教えてください。

河野:東南アジア研究が盛んになったのは1960 年代。東西冷戦の主戦場となり、東南アジアを知る必要に迫られた、あるいは東南アジアにおける政治的な影響力を強めたいと考えた欧米列強によって発展しました。最近の中近東研究が活発なのと同じですね。そんなきっかけで始まった研究ですから、やはり主たる関心は地政学的な研究、あるいは投資対象としての東南アジアだった。

一方、同時期に始まった京都大学の東南アジア研究は、京大が元から持っている「探検心」というのでしょうか、「何でも見てやろう」という精神から、「東南アジアの社会はどんなもの?」、「自然環境はどうなってる?」、「生態系はどうなっていてどんな虫がいるんだろ?」という「探検」が発端だった。だから、世界の東南アジア研究の潮流が「国際的な大きな枠組みの中における東南アジアの政治的経済的意義は何か」だったのに対して、京大のそれは「東南アジア社会ってどんなところ?」という、地に足がついた「実体を把握する」ことから始まった。

また、東南アジア研究に関する国際的な組織は、欧米主導の学会が二つほどあるだけで、そこでしか東南アジア研究の専 門家が成果を発表する場がない。そのため、学問の視点が欧米に由来するものに偏っていた。

しかし、地政学的な課題は地域研究のごく一部でしかない。日本を含む先進国は、ある程度の経済成長後に高齢化社会に なって社会福祉制度が変わってきましたが、今の東南アジアは経済成長と社会の高齢化が同時に起こっていて、新しい課題がどんどん出てきている。そういった東南アジアや発展途上国が持つ共通の課題は、国際関係論の中で論じるのではなく、それぞれが独自で取り組む必要があると考えてきたので、欧米主導学会の主潮には、ずっと違和感をもっていました。

東南アジア社会が経済的に発展して豊かになり、大学や研究者が育って研究レベルが上がると、彼らは地域の問題を自分たちの課題として一生懸命に取り組んでくる。さらに、ASEAN 統合(ASEAN 経済共同体)を控えて、東南アジアの国々はお互いの隣国を見ながら自分たちをよくしようとして交流が進み、ASEAN 研究が盛んになってきた。この研究と僕らの研究は関心対象が近く、東南アジア研究の国際的な潮流を変えるべき時が来たな、と。そのためにも、日本と東南アジアが組んで新しい場を作ってそこに欧米を引き込み、今までのものを180 度変えようと4 ~ 5 年前から考えていました。

さらに、今の国際情勢を見ると、そこに中国と韓国も引き込むべきだと。東アジアから東南アジアにかけての一帯で、こ の地域の研究を牽引するんだという形で世界にアピールする場を作ろうと。その議論を重ねるためにSPIRITSを使いました。結果として、2013 年10 月に日本を含む9 カ国11 組織と「アジアにおける東南アジア研究コンソーシアムSEASIA」を結成し、第1 回総会を2015 年12 月に京都で開催することになりました。これは、地域研究を世界の列強のための学問ではなく、各地域が自分たちの歴史的経緯、価値観、自然環境を踏まえて、それぞれが成長する道を探るためのものへと変えていきたいというもので、そのためのワンステップがSPIRITS で踏み出せた、と思います。

——すばらしい成果ですね。ありがとうございます。続いて、村瀬先生の「統合創造学の創成-市民とともに京都からの発信-」についてお願いします。

村瀬:はい。手元にSPIRITS採択時の評価があります。実はB評価でした(笑)。評価書には、「意欲的な研究プロジェクトであるが、申請者が主張する『単なる客観科学の延長を目視しない』という視座から、どのように研究成果を生み出していくのか、プロセスを明確にして研究を実施することが望まれる」と書かれていました。「客観的な科学を単に延長しない」と明記したのは、「論文が何本出ました」とか「特許をこれだけ取りました」といったことでアピールしたくなかったからです。

学際型なので、理系や文系など複数の分野をどんどんと取り入れたいと考えていました。たまたま2013年に、市民と大学をつなぐ窓口のような京都クオリア研究所の「クオリアAGORA」の運営委員を依頼され、そこで定期的に議論するうちに、大学を巻き込んだ形になりました。