2015.12.24

秩序とカオス


村瀬:
( ペンを取り出しながら)このペンを机の上に立てると、必ず倒れます。でも、手の上にペンを乗せてうまくフィードバックすると立った状態になる。つまり、人間がフィードバックを与えると、秩序のないところから秩序を創れて、しかもその秩序がまた壊れることもあるのです。

この現象は、実は株の乱高下の時に秩序化が起こっているのと同じです。株価が一気に上がったり下がったりするという のは、みんなが一斉に「株を買う」、「株を売る」という、同じ行為をとっている状況で、秩序化が起こっています。秩序がないところから秩序が生まれるというのは、フィードバックがあって棒を立てるのと全く同じで、物理現象と経済現象の本質がひとつの原理で表せる。複雑なシステムが自律的に、外力なしで秩序を創って、また壊す。実はそれがカオスです。 私たちの心臓の拍動も、周期的ではなくカオス的です。そのため、外の世界で起こる想定外の状況に対応できるのです。生体システムは、フィードバックがあるために、自律的に秩序を創ったり壊したりする。このように眺めてくると、物理と経済、医学の世界が、何かひとつのキーワードに収まることに気づきます。その本質は「創造的破壊」です。創ることと壊れることは、コインの裏表という見方ができるわけです。

病気の自然治癒も同じで、調子が悪いからといってすぐに薬を飲まなくとも、自然に治ることが多い。つまり、システム にあえて外から外力を加えなくとも、システムが自律的にもとの状態に戻ることがある。つまり、放置していても秩序が生まれたり壊れたりするのであれば、「外から力を加えなくても自律的に働くダイナミズム」を理解する必要がある。それがシステムの違いによらずに普遍的であれば、異なる学問領域において、何らかの共通した本質が見えてくるに違いない。このような観点をもとに、「統合創造学の創成」プロジェクトを推進しました。

SPIRITS 学際型のキーワード「未踏領域・未科学」に僕自身が惹かれていたところ、基礎物理研究所の佐々木所長から、「未踏科学ユニット」の設置の話がきました。SPIRITS と同じキーワードでユニットの構想があったことから所長が連絡した次第です。京都大学の理念のひとつである「未踏領域・未科学」を「未来創成学」として全面的に打ち出す形で提案し、皆さ んの協力もあって思いがけない展開で進みました。この展開は、客観科学の延長ではなかったと思っています(笑)。

——ありがとうございました。今のお話で、SPIRITSが役立ったということが実感できました。

無秩序=秩序?

河野:ひとつ聞かせてもらっていいですか?

村瀬:どうぞ。

河野:株価が下がるときが「秩序がある」のですね?

村瀬:そうです。みんなの行為が同時に「売り」なら「売り」一色になりますよね。

河野:ええ。だけど、普通は「株価が安定する」と言うのは、会社の業績に対する評価がそれなりに決まった状態で、株の購入者たちの評価が大体同じだから、株価は安定する。

村瀬:あ、そこの解釈が違って。平均すると一定というのは、買う人と売る人の両方がいて、平均すると一定なわけで。

河野:あ、そうか。

村瀬:平均しても下がる、もしくは上がるというのは、どちらかのポピュレーションが圧倒的に多いから、その意味で秩序がある。

河野:なるほど。例えばベトナムの場合、ベトナム戦争中は森林伐採が起きない。ところが、戦争が終わったら木材需要が一気に高まって、人々がどんどん木を切る。戦争が終わった直後は政府の新しい体制が整っていないから、地方行政なんかまったく機能していない。だけどマーケットは急に動き出す。だから、戦争直後は森林を守るための規制は意味がなく、森林面積がいきなり減る。これは、僕らから見るとガバナンスの崩壊ですよね。つまり、秩序が崩壊している。だから、森林面積が一気に減少するときは秩序が崩壊していると見る訳ですが、全然違うんですね?

村瀬:はい。同じ現象ですが、人の行為に限れば「木を切る」のも「株を売る」のも一緒で、その時は人の行為はみんな連動していて、それを「秩序がある」と見ます。だけど、もう少し高次、全体の視点から見ると、同じ現象が「秩序の崩壊」に見えるので、同じ現象だけども見方によって違って見える。

河野:なるほどね。秩序っていうのは難しい言葉ですねえ。

村瀬:そうなんです。秩序といいながら実は無秩序だったり(笑)。

——別の機会に、ぜひ「秩序」の話をゆっくりとお聞かせいただきたいですね。