どんなことでも宇宙と結び付く

 

「宇宙ユニット」が関わりを持つのは、理工学分野の研究者に限らない。医学、生命科学、情報学、エネルギー科学、環境科学といった自然科学系はもとより、哲学、倫理学、宗教学、文化人類学といった人文・社会学系の分野にまで及ぶ。「宇宙に関連した異なる分野の連携と融合による新しい学問分野・宇宙総合学の構築」という目的に向けて大きな役割を果たしているのが、磯部洋明(いそべひろあき)宇宙総合学研究ユニット特定准教授だ。

「宇宙ユニット」の設立当初は、人文社会学系の研究者は一人もメンバーにいなかった。当時、唯一の専任教員であった磯部准教授は、人文社会学系の研究者を訪ねてはユニットに誘った。「はじめの頃は『すみません、宇宙に興味ありませんか?』と、さながら飛び込み営業のようでしたね」…しかし、すべての研究者が耳を傾けてくれたわけではなかった。そもそも人文社会学は「人間の営み」を対象とする学問である。まだそこに住む人間のいない宇宙空間を研究のフィールドと捉える人は少なかった。

 そういった研究者たちに、自身の宇宙研究にかける思いを押し付けることをしなかった。枠を乗り越えてもらえないなら、自分の方から枠を乗り越えるようにした。本人の言葉を借りるなら「相手の土俵に上がり込む」ように切り替えた。もし人類が宇宙に住むようになったら現在ある人文社会学はどのような形で存在するかといった仮定の話から、あえて相手の専門分野について自分の考えを述べることもあった。「普段から色々な分野にアンテナを張っておいて、研究者に会う時はその人の研究分野について少しでも勉強してから行きます。いきなり『宇宙どうですか』と言われたら普通困ってしまいますけど、相手の分野に一、二歩踏み込んで議論を持ちかけると、『いやいや、それはちょっと違ってね...』と乗って来て下さる方が結構多いんですよ」。磯部准教授の「相手の土俵に上がり込んでの誘い」は功を奏し、学内・学外に「宇宙ユニット」の学術交流の輪は広がり続け、2013年度には哲学や文化人類学の学会で「宇宙倫理学」や「宇宙人類学」のセッションを持つまでになった。

 「宇宙人類学」という新たな学問領域に取り組み、「宇宙人とのコミュニケーションの可能性」について研究を進めているアジア・アフリカ地域研究研究科の木村大治教授は、学会で「もし、人類が宇宙人と出会うことがあれば、真っ先に呼ばれるのは我々、文化人類学者だろう」と述べ、人類学が見知らぬ他者や異文化との接触を起点とする以上、宇宙人を研究の対象とすることには意義があるという考えを示している。宇宙を「人類の生存・活動空間」として捉えることは、多くの学術研究にとって新たな領域を切り拓くと同時に、学問における従来の常識や自明性を改めて見つめ直すきっかけとなりそうだ。

 また「宇宙総合学の構築を目指すのなら、芸術との連携は欠かせないと思いました」と、磯部准教授は語る。京都大学と、芸術・デザイン・マンガ・人文の4学部を擁する京都精華大学1は、2008年に教育、研究及び社会貢献活動の推進を図る協定を結んでいる。同年に発足した宇宙ユニットは、活動の初期の段階から京都精華大学と連携して「宇宙とアート」のプロジェクトを推進してきたが、学術研究の枠を越えた異分野とコラボレーションは、広報的な側面を持ちながら、思わぬ広がりを見せた。

 「宇宙とアート」に始まる「宇宙と○○」のコラボ企画は、京都らしい伝統文化との結び付いたものを中心に、お寺で宇宙学、宇宙落語、宇宙茶会、宇宙書会、宇宙と香り、宇宙と陶芸、宇宙と古事記と次々に生み出された。そのユニークな組み合わせは注目を集め、普段、科学に興味を持つことの少ない人々に「宇宙」への関心を持たせる機会となった。

宇宙をテーマにした落語で、笑いながら宇宙を知り、好きになる。宇宙落語会は定期的に開催されている。
宇宙をテーマにした落語で、笑いながら宇宙を知り、好きになる。宇宙落語会は定期的に開催されている。

 

 「どんなことでも宇宙と結び付けてしまう」ことで知られるようになった磯部准教授は「ほとんど趣味のようなものです」と冗談めかしながらも、学外で様々な分野の人と宇宙を語りながら、宇宙と人間や社会の関係を探り、「宇宙ユニット」や自身の研究活動にフィードバックすることも強く意識していると言う。

 副ユニット長である柴田教授も、自らが台長を務める花山天文台(京都市山科区)の特別公開のイベントに音楽家の喜多郎氏を招き、野外コンサートを開催した。地球環境や宇宙をテーマとする楽曲作りをする氏は、柴田教授の太陽フレアに関する研究に強い関心を示し、後に発表したアルバムのコンセプトにもその影響を見ることができる。

 「宇宙ユニット」の活動は、自身の研究の妨げになると感じることはないか尋ねると、柴田教授は「確かに時間は限られていますから、全く影響がないというと嘘になります」と前置きをしながらも、「でも、所詮は人ひとりの時間です。それよりも、出来るだけ多くの方に宇宙に興味を持っていただき、支えていただく方が研究そのものは進むと考えています」と、答えた。


  1現在はポピュラーカルチャー学部が新設されて5学部編成


 

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