自発的な利用でこそ役立つ学習方法

―― カリキュラムの組み方や学習方法に興味を持ったきっかけは?

マナロ教授 大学では心理学を専攻しました。ずっと学習に関心があり、教育心理学を専門に学ぶようになりました。その時はまだニュージーランドにいて、ディスレクシア(読み書き障害)の中学生の学習について研究しました。彼らは理解力や論理的思考といった知的能力には全く問題がないのですが、文字を読むことがうまくできませんでした。

そこから、色々な“学ぶための知恵”に触れる機会がありました。その中で特におもしろかったのが、京都の両洋高校で実践されていた「様態」という学習方法についての研究でした。算数の授業で、歌やお話、時には手遊びのような動きを使って計算を教えるんです。こうした記憶のためのテクニックは数多くありますが、「様態」がユニークなのは計算の答えを覚えるのではなく、計算の手順やルールを覚えさせることです。研究チームがカリフォルニアの小学生にこの方法を使って分数などを教えたところ、見事に成績が良くなったと書かれていました。かけ算や割り算にも苦労していた子どもたちが、分数の計算を理解することができたのです。

―― そこから日本との縁が始まったんですね

マナロ教授 1998年に両洋高校を訪ねて初めて日本に来ました。残念ながら校長先生が亡くなって「様態」による学習はもう行われていませんでしたが、その時に京都教育大学の矢野先生とお会いすることができ、日本の研究者との共同研究につながっていきました。

―― 外国人研究員として日本に来られて、大変なことはありますか

マナロ教授 私は日本語をあまり話せないので、言語の問題は大きいですね。ただ、日本に来る前から日本の研究者と共同研究をしていましたし、日本に来ることにそこまで抵抗はありませんでした。教育学部は数年前からグローバル化に力を入れていて、2014年に私が初の外国人教員として着任した後も2人の外国人研究者が加わっています。

ここに来る前は2年間、早稲田大学にいたのですが、その時に批判的思考力は言語能力によって左右されるという研究をしたことがあります。アジア人が欧米人よりも批判的思考が苦手だと言われているのは、実際は英語力の差によるところが大きいんです。批判的思考の評価は、母国語ではない英語で行われていますから。

そこで、母国語での批判的思考力を調べたところ、言語能力が高ければ批判的に思考した内容をうまく表現できることが明らかになりました。脳の容量には限りがあるので、言語の扱いに必死になると肝心の考えるためのスペースがなくなってしまうんですね。言語能力は非常に大事です。私も日本語を頑張らないといけません(笑)

―― 学習方法についても数多くの研究をされていますね

マナロ教授 「様態」のような効果的な学習方法は、世界各地で考案されています。英語のスペルの規則を覚えるための歌のような具体的なものだけでなく、学生の質問を促す方法や理解を深める方法といった汎用的なものもあります。では、どうすれば学生たちが効果的な学習方法を自ら進んで取り入れてくれるのか……。そう考えて、2017年に1冊の本を作りました。 世界中に無数にある学習方法に対してひとつの方法論を確立することは難しいので、この本では世界の研究者から事例を募り、章ごとに紹介しています。その中で共通して見えてきたのが、学習方法の自発的な利用のためには、先生と生徒、そして学習環境の三つが一定の条件で機能することが必要だということです。ただ単に、先生が生徒に「こんな方法があるよ」と紹介するだけでは、学生はその学習方法を自発的に活用できません。

マナロ教授が執筆、編集した『Promoting Spontaneous Use of Learning and Reasoning Strategies』
マナロ教授が執筆、編集した『Promoting Spontaneous Use of Learning and Reasoning Strategies』

―― カリキュラム・スペースと同じく、先生の力量が問われるということでしょうか

マナロ教授 そうですね。例えば、図表を使った学習方法があるとしましょう。まず生徒はその図表の「作り方」を覚えないといけません。でも、せっかく作った図表の意味を理解しなければ、応用につなげられません。その図表を使えば早く問題が解ける、といった効果を実感させる必要があります。そこに先生の説明や周りの環境が加わってはじめて、誰にも言われなくてもその図表を使うようになるんです。

―― 「自発的に」ということが大切なのでしょうか

マナロ教授 そうです。先生が常に学生の近くにいるわけではありませんから。自分たちで使えるようにならなくては、どんなに素晴らしい学習方法も役に立ちません。