研究パートナーとして、夫婦として。

 

――研究内容もさることながら、おふたりのパートナーシップにも興味があります。ご結婚された1994年当時は、それぞれ別の地域を拠点に研究をなさっていたのですよね?

橋本助教 古市がお話したとおり、フィールドワークは熱帯雨林の過酷な状況下で行います。通信環境が限られていますから、互いに連絡を取り合うには、関係をパブリックなものにする必要があるかなと…。

古市教授 夫婦であれば、大手を振って一緒にいられるからね。

――なるほど(笑)。…それでは、別姓にされているのはなぜですか?

古市教授 橋本にどちらの姓にする?ともちかけたところ、彼女は「あみだくじで決めようか」と答えました。そんな大切なことをくじで決めるのか…と驚きつつ、当然のように自分の姓にこだわっていた自分に気付き、別姓にすることにしました。もちろん、女性の研究者は増えているとは言え、それまでの研究功績が改姓することによって見えにくくなるといった実情への配慮もありました。

――戸籍上のパートナーが同じ分野の研究者であることにジレンマはありますか?

古市教授 たとえ別姓を名乗っていても、夫婦であることで個々に評価されにくいということがあります。橋本個人の研究であっても、私が支えたからだとか、実際は橋本の功績があってこその成果だとしても、私個人の研究として見られたりと、どこか不平等なんです。

橋本助教 研究者としては一種の競争相手ですから、調査方法や方針でぶつかり合うこともたびたびです。でも、最終的にはお互いの味方であるという信頼関係は築けていると思います。私は自分の研究に没頭したい方なので、研究の広報的な役割を古市に任せているところもありますね。

古市教授 そういう意味では、常に橋本にリードされていますね(笑)。以前は、明治学院大学で一研究者として過ごしていたのですが、彼女に駆り立てられて、京大に戻って研究を進めるかたわら、若い研究者を指導し、より多くの方に霊長類研究に興味を持っていただけるような活動にも力を注ぐようになりました。

――より「ヒトとは何か」の起源に近づくためにですね?

古市教授 そうですね。霊長類学は多様な分野と研究手法が学際的に融合したものですから、「自分が面白いと思ったことを面白く伝える」ことが一番の広報活動だと思っています。面白いと感じる好奇心こそが、研究者に求められる素養です。どのように調査を進めるかといったノウハウはいくらでもあります。肝心なのは何を研究したいか、高めた好奇心をどこに集中させるかです。昨今は、私たちが学生だった時代と比べると短い期間で研究成果を出さなければならないという風潮がありますので、好奇心を育てることがとても難しくなってきているとも感じています。

――お子様がいらっしゃるそうですが、夫婦としての役割はいかがですか?

古市教授 子供が生まれた時、女性教員も含めて明治学院大学初となる育児休業を取ったのですが、橋本は全く頼りにしてくれませんでした。

橋本助教 子育てに関しては、ボノボのオスと同じでメスに任せきりです(笑)。お互いの研究スケジュールの都合もあって、私がメインで子育てしてきたこともありますが、小学生になった今でも、ウガンダの調査地はもちろん、学会で別の国に行くときも出来る限り一緒に連れていくようにしています。

古市教授 チンパンジーの母子をいつも見ているせいか、チンパンジーの母親に近い感じで、長く子供と一緒にいるんです。その分、子育てのサポート役に徹して、橋本の食事は私が作っていますよ。

――研究に基づいた冷静な分析ですね(笑)。本日はありがとうございました。

 

古市教授・橋本助教にとっての「研究力」とは?

古市教授 何を研究するかが決まれば、その研究は八割方出来たようなものだと思います。どのように研究を進めるかといったノウハウやリソースは十分にありますからね。近年、若い研究者は短期間で成果を求められる傾向にありますが、初期段階でどこまで研究対象と向き合うことができるか、その後の探究を持続する大きなポイントになると思います。

橋本助教 好奇心に尽きると思います。ボノボやチンパンジーの日々の営みから何を見出すか、持っている知識や学力とは別のものだと感じています。フィールドワークには相応の体力と集中力が求められますが、女性の研究者も数多くいます。些細な変化や兆しに気付いて、興味を広げていくことができれば乗り越えられるものだと感じています。

古市剛史(ふるいちたけし)
京都大学霊長類研究所教授/霊長類行動・生態学、人類進化学

 

橋本千絵(はしもとちえ)
京都大学霊長類研究所助教/霊長類行動・生態学、保全生態学