2014.10.03

研究者としての説明責任

――そもそも地震工学を研究されようと思ったのはいつですか?

後藤助教 私が高校生の頃、温室効果ガスの削減目標を掲げた京都議定書が採択されたこともあって、地球環境問題を学ぼうと、工学部地球工学科を選んだんです。でも、自然災害に関連する生々しい授業を受けているうちに、「温暖化よりも巨大地震の方が深刻ではないか?」と思うようになり、三回生の頃に転身しました。

――生々しさ、深刻さといったことは今でも感じられますか?

後藤助教 例えば、大きな橋のような建築土木構造物を作る時は、クライアントとエンジニアが性能設計に関するやりとりをして意思決定します。我々、地震工学の研究者は、その意志決定に必要なデータや、その背景や裏付けとなる説明を精緻に差し出すことが求められます。「三匹の子豚」という話があるじゃないですか。かけるコストによって避けられるリスクが変わりますよっていう…ああいった明快さ、ある種の生々しさが必要とされるんですよ。

――狼の強さをこのぐらいと仮定するなら、どんな家を建てますか?という話ですね(笑)

後藤助教 発生が予測されている南海トラフ巨大地震は、最大規模でマグニチュード9.1です…だけでは、エンジニアリングを行う設計者には何も伝わりません。想定される状況を想定することができなければ、性能設計も予算提示もできないわけです。

――研究の成果が被害の増減に関わるという意味では非常にシビアですね。

後藤助教 そうですね。地震工学は、狭義には地震の発生メカニズムを理学的に解明して、それに対応する建築、建造物を工学的に設計するというものですが、広義には、その実現に向けて実社会をどう変えていくかといった社会科学、経済学の領域も含んでいます。

――社会全体の防災意識を高めていくことも、地震工学の役割の一つであると?

後藤助教 私自身、地震工学における社会科学系の領域は専門ではないので、あくまでボランティアという立場を取りながらですが、防災教育の活動もできる限り行っていきたいと思っています。

――大崎市古川のプロジェクトでの経験が大きいですか?

後藤助教 少なからず影響はあります。地震計の設置に協力してくださった住民の方々からは「次の地震はいつ起きるのか?」といった質問をたびたび受けました。地震専門の研究者としては正しくありませんが、震災の直後には、非科学的な説明をして不安を取り除くこともありました。結局のところ、発生自体を防ぐことはできないわけですから、地震が起きた時に被害を軽減することが防災というものだと思いますし、知識を持った我々が啓蒙活動を行う意義だと思っています。

――防災教育における課題はどういったものでしょう?

後藤助教 地震に限らず、多くの災害でもそうだと思いますが「防災教育のパラドクス」というものがあります。防災に関するセミナーや講演には、いつも同じ方、つまり、一定以上の防災意識を持たれた方ばかりが来られるんです。本当に防災について知っていただきたい方には届きにくいという悩みがありますね。

――確かに、いつ起こるか分からない自然災害に目を向けるのは難しいかもしれません。

後藤助教 起きてからでは遅いんです。だからと言って、無闇に危機感をあおり過ぎてもいけないと思います。せっかく意識を持っていただいても、目を背けられることにもなりまねません。私の場合、出来るだけ多くの方の関心を惹くように、笑いの要素を入れるように心がけています。

2013年に実施した小学生とのイベント「大科学実験!」のひとこま
2013年に実施した小学生とのイベント「大科学実験!」のひとこま

――笑いの要素ですか?

後藤助教 深刻に、リアルに伝えようとしても、継続的に意識を持たすことが出来なければ意味がありませんからね。ごく自然に自分ごととして認識していただくためのあくまで手段です。ちなみに私が良く使う自己紹介は「防災をしない防災研究者」です。ほら、現にこの研究室だって、これだけ資料があるのに、本棚につっかえ棒すらしていないでしょう?(笑)…という冗談はさておき、実際、一個人として、常に防災の意識を持つことは非常に難しいわけです。自らそれを宣言することで、場の共感を得ながら話を進めます。この私ですら防災をしたくなるような状況を作ることが目標でもありますしね。

――なるほど、そのための「笑いの要素」ですね…興味深い話をありがとうございました。

後藤助教にとっての「京大の研究力」とは?

短期的な成果にとらわれることなく、長期的な視点で研究に取り組むことができるということでしょうか。こと、私が関わっている自然災害の研究領域においては、社会に与える影響の大きさからも、検討の余地を残したまま研究内容を発表するわけにはいきません。また、研究データを蓄積し、検証する時間が与えられているということは、災害発生時など、いざという時に起こすべき研究アクションの幅を広げることになると実感しています。

後藤 浩之(ごとう ひろゆき)
京都大学防災研究所 助教/地震災害研究部門 耐震基礎研究分野