2018.03.10

前近代の社会では、法や裁判だけでなく、さまざまな慣習やモラルや利害のせめぎあいが秩序を作り出していました。とりわけ、多様な人びとのゆきかう都市という場では、秩序と混乱は背中合わせでした。室町時代の京都にスポットを当てた研究に取り組む、京都大学大学院法学研究科の高谷知佳准教授。著書『「怪異」の政治社会学 室町人の思考をさぐる』では、室町時代の人びとの思考を探る題材として、当時「怪異」と呼ばれたさまざまな出来事に着目し、都市社会の秩序と混乱の一面を解き明かしています。

歴史好きな法学部生が室町時代の謎に挑む研究者へ

―― 室町・戦国期の都市社会について多く執筆されていますが、どんな研究をされているのですか

高谷知佳准教授 専門は前近代の法制史です。現在の日本の法の枠組みは、明治時代に入ってきた西洋の法を基盤としていますが、その枠組みがまだなかった時代の法や秩序とはどのようなものであったのかを研究する分野です。私のテーマは、日本中世都市の法、特に当時の首都圏である京都や奈良を中心に研究しています。

―― 歴史研究の要素が強いような気がしますが、高谷先生は法学部のご出身ですよね

高谷知佳准教授 実は、特に目的があって法学部に入ったというわけではないんですよね。高校時代は勉強ばかりしていて、おもしろいことは大学に行ってから探そうと思っていました。ただ、将来は弁護士か何か、独り立ちしてやっていける仕事に就ければ、と考えていたので、法学部なら選択肢が多いかな、と。

私の関心としては、歴史とか文学が好きだったので、1回生のときは一般教養でそうした科目をたくさん履修しました。当時は「○○学基礎論」というタイトルでありながら、先生のマニアックな研究成果を学べるおもしろい講義がたくさんあったんですよ。そこで、研究っておもしろいな、と思うようになったんです。

―― 法律の勉強のほうは?

高谷知佳准教授 2回生くらいになって、法律関係の勉強はあまり向いていないな、と気づきまして。法学の思考って、ほかの文系学部とは少し違って、なんらかの目指す結論を決めて、そこに向かって人を説得するために法を用いて議論を組み立てていくという感じで。私はやはり歴史の史料や文学作品から何かを読み取るという方が好きだったので、法学部の中でそういう方向に進めたらと思って現在に至る、という感じです。

―― 法学において「法制史」とはどういうものなんでしょうか

高谷知佳准教授 癒しの場、だと思います(笑)。六法関係の気分転換にちょっと癒されに来るような分野じゃないでしょうか。ただ、せっかくなので、「現代とは異なる社会」の法や秩序のあり方について、想像の翼を広げて欲しいと思います。

 

同世代の研究者たちと作った、日本法制史の最新テキスト
同世代の研究者たちと作った、日本法制史の最新テキスト


―― 「現代とは異なる社会」とはどういうことでしょうか

高谷知佳准教授 私の専門は室町時代なのですが、室町時代って日本史の中でも一番、影が薄い時代ですよね。それは現代の私たちの目を通すと分かりにくいことが多いからです。法制史でいうと、鎌倉時代には『御成敗式目』、江戸時代には『公事方御定書』という、現代の私たちの目から見ても法や判例と似ているものがありますが、室町時代には特に見つかりません。だからこそ、過去の時代は法以外に、何を材料として社会の秩序が作られていたか、探っていこうと考えました。

そして、こうした関心から、2018年に、法制史だけではなく、日本史や法社会学、実定法など、さまざまな分野の研究者が集まって、古代から現代までの秩序を描く『日本法史から何がみえるか』という教科書を出しました。