遠回りの研究が幅広い可能性を生み出すことを信じて

―― PET分解の仕組みも突き止めたんですよね

吉田特定准教授 僕はその後、8年ほどこの研究テーマから離れていたんです。民間会社で1年ほど働き、博士後期課程に進学して学位を取得して、アメリカに留学していました。イデオネラ・サカイエンシスがなぜPETを分解するのか。それは分解酵素があるからだ、と考えられるんですが、修士の院生時代にはどうしても見つけられなかった。2011年の震災直後に留学から帰国して慶大の助教に着任したとき、これまで学んだことを役立てれば酵素が見つかるかもしれないと考え、もう一回このテーマに取り組むことにしたんです。

イデオネラ・サカイエンシスがどうやってPETを分解するのか、遺伝情報をいろいろな角度から解析したところ、最終的に2種類の酵素がはたらいていることを突き止めました。この二つの酵素は、PETを好んで分解することがわかりました。しかも、常温でよく分解する性質があるんです。PETは高分子なので、酵素によって分解されると、その構成分子であるテレフタル酸とエチレングリコールになります。イデオネラ・サカイエンシスはこれらの構成分子を栄養にしています。特に、このPETをバラバラにするところが、ほかの微生物にはない、すごくユニークなところなんです。

 

高分子のPETは、2種類の酵素(PETaseとMHETase)によって段階的に分解される
高分子のPETは、2種類の酵素(PETaseとMHETase)によって段階的に分解される

 

―― ペットボトルリサイクルの実用化に向かっているんでしょうか

吉田特定准教授 興味を持ってくれる人はたくさんいますが、今のところはまだです。まだ実用化のレベルではないので、もっと研究を積み重ねていく必要があります。

―― リサイクル以外に応用できる可能性はありますか

吉田特定准教授 もともとこの研究が始まった理由の一つが、ポリエステル繊維の加工だそうです。ポリエステル繊維の表面は水をはじいて肌触りがよくないけれど、少し分解して水になじみやすい性質にすると、肌触りがよくなる。今はアルカリを使って加工しているんですが、それを生物の力でできたら、というところからこの研究がスタートしているんです。ほかにも応用の可能性はあると思うので、この研究が橋渡しとなったらいいですね。

―― 学生時代から研究者になろうと思っていたわけではないんですか

吉田特定准教授 アカデミアの研究者になろうとはまったく思ってなくて、廃水処理の会社で研究開発に携わっていました。食品工場などの廃水に空気を送り込むと、微生物が活性化して廃水の有機物を食べてくれて、水がきれいになるという、広く利用されている技術があります。どれだけ効率アップするかが重要なんですが、微生物学的なアプローチというよりは、入れ物の構造とか、僕の能力では及ばない部分が多かった。それに廃水もそうですが、屋外の微生物は種類が多くカオスな状態で、「どの微生物が何をしているのか」といった研究に簡単に手をつけられる状態ではなかったです。

それと、会社は「水をきれいにする」という明確な目標があって、脇道にそれるわけにはいかない。僕はそれがちょっと苦手だということにも気づきました。もう少し違うやり方で環境浄化の研究に取り組んでみたいという気持ちが芽生えて、学位を取ろうと思ったんです。

―― 研究の場として大学を選んだわけですね

吉田特定准教授 営利目的やスポンサーの都合などにとらわれず、自由にやりたいという気持ちが大きいですね。研究って目的地に向かって一直線に進むほうがいいという考えがあるかもしれないけど、僕は少しくらい遠回りしてもたどり着ける、むしろそれが近道じゃないかと思うんですよ。今回のPET分解菌の研究は科学誌が宣伝をしてくれて、新聞報道などもあったので、あちこちで「環境にやさしいリサイクルができる!」という期待の声が聞かれました。ただ僕はいま、分解の効率を上げる方向にのみ向かうことには懐疑的で、ちょっと遠回りかもしれないけど、菌をよく観察して、その現象から実用化へのブレイクスルーの可能性を探りたいと考えています。