ブラックホールを記述する新理論をコンピュータで検証

 花田政範 基礎物理学研究所特定准教授、伊敷吾郎 同特任助教、西村淳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所准教授、百武慶文 茨城大学理学部准教授らの共同研究グループは、ブラックホールで起こる力学現象を厳密に記述できる新理論を、コンピュータによって数値的に検証しました。

 本研究成果が、2014年4月17日(米国東部時間)付の米国科学誌「Science」のオンライン版に掲載されました。

概要

 ブラックホールは、一度中に落ち込むと光の速さをもってしても外に出られないという、宇宙空間にぽっかり開いた「黒い穴」です。これに対して1974年、英国のホーキング博士は、ブラックホールの周りで粒子と反粒子が対をなして生成したり消滅したりする微視的な効果を考慮することにより、ブラックホールが輻射を出しながらゆっくりと蒸発していくことを理論的に導きました。このことからホーキング博士は、ブラックホールが一定の「温度」を持った物体と見なせることを示しました。

 一方で、このようなブラックホールの性質を、ブラックホールの内部から精密に理解することは、これまで困難と考えられてきました。それは、ブラックホールの中心に近づくにつれ、時空の曲がり具合が大きくなり、一般相対性理論に基づく重力の記述が破綻するためです。

 この問題を解決する新しいアプローチとして、1997年米国プリンストン大学のマルダセナ教授は、ブラックホールの中心を含めて正しく重力を記述する理論を提唱しました。この理論によれば、ちょうどホログラムが立体図形の情報を平面上に記録できるのと同様に、ブラックホールのように曲がった時空で起こる力学現象を、平坦な時空上で精密に記述できます。

 今回の研究では、マルダセナの理論を用いてブラックホールの質量と温度の関係をコンピュータで数値的に計算しました。さまざまな大きさのブラックホールに対して計算した結果が、従来の超弦理論に基づく重力の量子力学的な効果の近似計算(別の研究)の結果と一致することを確認しました。これまでの多くの検証は重力の量子力学的な効果が無視できる状況下で行われてきましたが、本研究の検証はそれらを越える結果を与えるものです。マルダセナの理論は、従来の超弦理論に基づく近似計算よりも適用範囲が広いと考えられ、本研究によって確立された数値的な手法をさらに発展させることにより、ブラックホールの蒸発に関連したさまざまな謎の解明につながるものと期待されます。

研究者からのコメント

 この研究では、「ホログラム」を用いたブラックホールの新しい記述法に関するマルダセナの理論を検証しました。これまでの研究では、重力の量子力学的効果が無視できる状況下でさまざまな検証がなされてきましたが、今回の研究ではこれをさらに一歩進めて、重力の量子力学的効果を含めた検証に成功した点において、大きな意義があります。

 今後、本研究をさらに発展させることにより、ブラックホールの蒸発に関連したさまざまな謎が解明できるものと期待されます。また、マルダセナの理論によるブラックホールの新しい記述法は、ブラックホールが時間的に変化していく状況にも適用できると期待され、この「情報喪失問題」の解明につながる可能性があります。

詳しい研究内容について