考える力、生きる力を習得するためのカリキュラムとは

―― 学習方法の自発的な利用に関する研究と「カリキュラム・スペース」はどのようにつながりますか?

マナロ教授 自発的な学習方法を活かすためにも、カリキュラム・スペースが必要です。学生が様々な学習方法を自発的に使えるようになっても、それを使って自らの考えを発展させるための時間的な余白がなければ批判的思考や創造性の育成にはつながりません。方法論や方針がいくら立派でも、教育の現場にいる学生に活用されなければ意味がないのです。

―― 他に、どういった研究を進めておられますか

マナロ教授 まもなく出版が予定されているジャーナルで「失敗」についての特集を企画しています。どんな状況や環境であれば、失敗してもまた挑戦できるのか、失敗から学べるのか。失敗を恐れて挑戦できないことが社会の中で問題視されていることもあり、世界各国からたくさんの論文が寄せられました。

その中の一つ、千葉大学の小山義徳准教授と私の共同研究では、時間内に文章を書くという課題を用意しました。時間内に終えられなかった人の中で、あと少しで課題が終わる人は続けさせてほしいと思い、そうでない人は諦めます。これはわかりやすいですね。次にわかったのは、あらかじめ文章の構成を指示されていた人は、指示を与えられず自由に書くことを許された人よりも、引き続き課題に取り組む率が高いという結果でした。つまり、先生が課題の全体像や構造を明確にすると、生徒は失敗しても諦めずに取り組むことができるということです。

―― 今後はどのように研究を進められる予定ですか

マナロ教授 カリキュラム・スペースの研究はまだ始まったばかりです。学習を通じて学生が習得すべき能力はどのようなものなのか、どのような形でカリキュラム・スペースを取り入れるのが良いのか、考えるべきことが山積みです。時間はかかると思いますが、まずはモデルとなるカリキュラムを作って、実践の中で考察していきたいと考えています。

教育の商業化が進み、学習塾やビジネススクールでは効率よく知識を詰め込むためのカリキュラムが次々に考案されています。一方で、ビジネス界では、どうすれば社員が最大限に能力を発揮できるかを追求した結果、就業時間をフレックスタイム制にしたり、部署の仕事に直接関係のない学習やプログラムを推奨するなど、カリキュラム・スペースに似た考えを実践する企業が出てきています。学校教育においても教育方針や指導要領は年々改変されていますが、どうしても既存の枠組の中での変化に留まってしまいがちです。もっと柔軟に、身につけるべき能力に合わせて教育現場を変えていくことができれば、学生のパフォーマンスは目に見えて向上するでしょう。どうすれば批判的思考や創造性の学習効果を最大限にできるかという視点で、広い視野を持ってカリキュラムを作り直していくべきだと私は思います。

マナロ教授にとっての「京大の研究力」とは?

ユニークな研究も多いし、おもしろいですね。だからこそ残念だなぁと思うことがあります。日本の研究者は、日本語でしか論文を発表しない人が多いですよね。せっかく良い研究がたくさんあるのに、世界に発信できていないのがもったいない!若い研究者には、どんどん海外に向けて発信していってほしいです。発音とか文法のミスなんてどうでもいいんですよ。アジア人もヨーロッパ人も、英語が多少下手でも堂々としています。日本の他大学に比べると京大は英語論文の発表が多いですが、まだまだ足りません!海外では共同研究をする人が増えているので、国内外を問わず共同研究にも積極的に取り組んで、研究の輪を広げていってほしいと思います。

考える力を育てるための教育法を考えるエマニュエル・マナロ教授
考える力を育てるための教育法を考えるエマニュエル・マナロ教授