サルの行動の背景にある要因を客観的に判断する手段はないか――そんな疑問から研究をスタートした、野生動物研究センターの村山美穂教授。遺伝子解析を手掛かりとして、多様な野生動物の生態のナゾを解き明かすことに挑戦してきました。性格に影響する遺伝子、血縁関係を判定する遺伝子などの研究は、野生動物の飼育や保全に役立っており、さまざまな可能性を秘めた研究分野として注目されています。

野生動物の遺伝情報を飼育や保全に活用

――野生動物の遺伝情報に関する研究をなさっているんですね

村山教授 野生動物のDNAからは、行動や生態に関するさまざまな情報が得られます。研究室では野生動物のフンや毛などからDNAを抽出して、個体情報のデータベースを作り、そこから個体識別や親子判定などに利用できる多型マーカー(個体によって異なるDNA配列の指標)を開発しています。この多型マーカーを使って、遺伝子と行動や性格との関係性を研究したり、野生動物の保護や繁殖に活用したりしています。

――野生動物の研究に興味を持ったきっかけは何ですか

村山教授 大学に入ったころは研究者になろうとは思ってなかったんです。でも、周りには研究者になるという明確な目標を持って京大に来たという学生が多くて、びっくりしましたね。それで私も自分のやりたいことを探さなきゃ、と。そのころ「嵐山モンキーパークいわたやま」によく足を運ぶようになって、行動がヒトに近いサルたちを見ているうちに、興味を持つようになりました。

サルはいきなりケンカしたり、追いかけっこを始めたりするんですけど、なぜそうなるのかが私にはわからなかったんです。行動の背景にある要因を客観的に示せるような、物質的なものを見つけられないだろうか、と考えるようになりました。それで、遺伝子を用いたニホンザルの父子判定というテーマに取り組んだのです。

ニホンザルの群れにはメンバー間に順位がありますが、高順位のサルほどたくさんの子どもを残しているかというとそうではなく、低順位のオスもそれなりに子どもを残しているという発見がありました。繁殖に順位が関係していないのなら、ほかにどのような要因が関係しているのか。性格や行動を決める遺伝子への興味がますます大きくなっていったんですが……。

――畜産技術協会附属動物遺伝研究所に就職されて、ウシの研究を

村山教授 大学院修了後も霊長類の研究を続けたかったのですが、サルの研究者では就職先がなくて。野生のサルと家畜のウシではまったく違いますから、もう、「泣く泣く」という感じでしたね(笑)。

ところが、やってみるとおもしろかったんです。ウシの肉が霜降りになる遺伝子の研究をしたのですが、霜降りというのは1個の遺伝子で決まるのではなく、いろんな遺伝子が少しずつかかわって、しかも環境の影響もあることがわかりました。私がやりたいと思っていた行動にかかわる遺伝子も、1個の遺伝子で決まるものではなく、環境の影響が大きい。霜降り肉という機能面の遺伝子研究の方法は、行動にかかわる遺伝子の研究と近いものがあるのでは?というヒントが得られました。

――その後はどういった研究をされてきたのでしょうか

村山教授 ヒトやその他の動物の性格は、環境の影響もありますが、遺伝の影響が50%くらいあるとされています。神経伝達やホルモン伝達にかかわる遺伝子の個体差が性格に影響するようです。ヒトでは性格と健康状態に関連があるとわかっているので、野生動物も遺伝子によって性格がわかれば、健康状態の把握、繁殖ペアの相性など、飼育や保全に役立つ情報が得られると考えました。

ゾウ、イルカ、ヤマネコ、猛禽類といった野生動物、野生ではないけれど人間にとって身近で性格が重要なイヌ、ネコ、ウマ、ニワトリなども研究しました。まだ研究途中ではありますが、将来はたとえば、警察犬や盲導犬などの適性判断や訓練などに役立てることができるのでは?と考えています。現在は性格に関係する遺伝子の研究と同時に、絶滅危惧動物の保全、ガーナの野生動物の家畜化の研究を行っています。