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レポート

アカデミックデイ2015 映像上映・解説レポート 東南アジア「人と自然」ドキュメンタリー

アカデミックデイ2015 「研究室の本棚」会場にて、京都大学東南アジア研究所による「人と自然」をテーマにした2014年度Visual Documentary Projectの入選作品である「The Silence of the Summer/沈黙の夏」と「More than a Tree/命を守るマングローブ」の2本が上映されました。

登壇者:マリオ・アイバン・ロペズ(京都大学東南アジア研究所 准教授)、直井里予(京都大学東南アジア研究所 機関研究員)

 「The Silence of the Summer/沈黙の夏」

舞台はベトナム・ハノイ。緑が失われる大都市からセミの声が消え、バイクの排気音と喧騒が人々の心をひりつかせる。かつて自然があった故郷の美しい田園風景すら今は記憶の中にだけ残っている。人口増加に伴う経済活動に押しつぶされる自然に心を痛める昆虫学者は、小さな生き物が消えることが生態系に大きな影響を与えると語る。木々の欠如に抗う人々は残された小さな緑―町の小さな中庭に一時の安らぎを得て、ささやかな夏の訪れを感じている。今や標本箱の中にしかいないセミは、再び鳴くことはない。

 「More than a Tree/命を守るマングローブ」

ミャンマー北西部のラカイン州にある海岸部の村落は、毎年ベンガル湾で発生するサイクロンによる洪水に生活を脅かされてきた。こうした状況に応えNPO・Malteser InternationalとMangrove Service Networkはマングローブの植樹を村民に呼びかける。マングローブが防波堤の役割を果たし、たとえ海から大きな波が押し寄せても安全な場所に逃げる時間を確保できるという。男性に負けじと女性も積極的に作業に参加し、人々は一丸となって命のマングローブを海岸に植え付けた。活動は植樹のみにとどまらず、木の伐採を防ぐために薪材利用が少なくてすむ熱利用効率の高いコンロを作るなど、マングローブを育て、長年保全していくための取り組みは多角的に行われた。2年後、マングローブは洪水から村落を充分守れるほどに大きく成長し、木の下ではエビや魚介類がよく採れるようにもなった。保全の取り組みが世代を超えて引き継がれていくことで、マングローブは今後も多くの人々の命を守り続けるだろう。

多様な視点から切り出された東南アジアの「いま」を見つめる

当初集まったのは10人程度でしたが、上映中に人が増え、最終的に部屋の隅の椅子も埋まるほどの人数になりました。なかでも40-50代男性が多く、東南アジアに行ったことがあるという人が半数を占めており、東南アジアに何かしらの関心を持った人が集まっているように見えました。

質問の時間にはプレゼンターと質問者、そしてお客さんの中に偶然(?) 居合わせた映像監督を巻き込んで「ドキュメンタリーとは何か」という深遠な疑問に思索を巡らせる一幕もありました。この予想外の展開に、ドキュメンタリーとはこういうことなのかもしれないとちょっと思ったり。

「The Silence of the Summer/沈黙の夏」では都市化により環境が破壊され、わずかに緑の残る小さな庭に安らぎを求めるしかない現状にやるせなさを感じましたが、マングローブ林の欠如、これに伴う災害の脅威に人々が一丸となって取り組み、共同体の危機を回避した「More than a Tree/命を守るマングローブ」は、人が自然を守り自然が人を守る良好な関係を取り戻すことは不可能ではない、という希望を抱かせてくれる作品だったと思います。

「人と自然」という普遍的なテーマだけあって、どちらの作品についてもお客さんは流れる音、語られる言葉に耳を傾け、映像に見入っていました。若手映像作家によって多様な視点から切り出された東南アジアの「いま」を見つめることで、作品を観た人全ての感情が揺さぶられ、認識が変化する。ドキュメンタリーにはそんな力があると感じました。

Reported by 倉田康平(アカデミックデイ2015学生スタッフ・京都大学農学部4回生)

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