アカデミックデイ2015 お茶を片手に座談会 vol.1 レポート
100万円あったら、どの研究に投資する?体験!クラウドファンディング
最近、研究の分野でも広がり始めている「クラウドファンディング」(※)という仕組みを疑似体験。研究者が研究内容を発表し、金額に応じたリターンの説明をした後、参加者に投票してもらうという流れで、4人の研究者が順に挑戦しました。
※クラウドファンディング(Crowd Funding)とは・・・
新しい資金の収集方法で、新規のプロジェクトやプロダクトをインターネット上で提案し、それに対して人々から少しずつ資金を集めます。必要な金額が集まると実際にプロジェクトが開始されます。集金が成功した見返りとして、資金を出した方は何らかのリターン(オリジナルTシャツや提案したプロダクト等)を得ることができます(リターンがない場合もあります)。
赤ちゃんを産むサカナが妊娠する仕組みを知りたい! (飯田敦夫 京都大学再生医科学研究所 助教)
飯田さんは成長した魚を「出産」するハイランドカープという胎生魚を研究し、とくに妊娠のメカニズムに注目しています。今回、母親の妊娠期間を決める要因や、胎仔が自分の出生時期を知る方法を見つけるために資金支援を募りました。研究成果はだいたい1年から1年半である程度カタチになるそうです。
リターンにはオリジナルぬいぐるみも登場し、投資を集めていました。
飯田さんは、直接医療等の成果に結びつく訳ではないが、将来的に教科書に一行載せたい、と控えめながらも熱く語られていました。会場からは、何のためにお金を使うのか疑問であるというコメントがあった一方、魚の「出産」の様子に驚いた、一行でも新しい知識が増えるのは良いという意見が出ました。
カミナリ雲からの謎のガンマ線ビームを追え!(榎戸輝揚 京都大学白眉センター・理学研究科宇宙物理学教室 特定准教授)
普段は宇宙に存在する中性子星が発するX線を人工衛星で受け取り、中性子星の性質を調べる研究をしている榎戸さん。その副次研究として、雷の発生の謎を探るために支援を募りました。
大学院生の頃に、自らγ線の検出器を作って研究し、修士論文にされたそうです。今回はその装置をいくつも作って日本海側に並べ、雲から出るγ線を検出・解析して、雲の中でどのように電子が加速されるのかを調べます。
榎戸さんはこの研究がもっと大規模な研究の足掛かりになることを望んでいました。また、検出したデータをウェブ上で一般公開し、市民科学に貢献していくことも検討されています。会場からは、雷が身近な現象にも関わらず解明されていないことに驚いた、市民科学の貢献に投資したい、といったコメントが出ました。
知られざる微小なハエに、名前を付けたい (熊澤辰徳 大阪市立自然史博物館 外来研究員)
日本国内だけでも数千種のハエに名前が付いていないそうです。熊澤さんはそのハエに名前をつけていくことを目指しています。これまでは博物館や自宅の顕微鏡を使ってハエの特徴を観察・識別し、国際的に研究者と協力して論文を出されてきました。これからは遺伝子を調べ、DNAの配列の違いで識別し、より正確に細かく分けていきたいそうです。そのためにはDNA解析の機械・試薬を買いそろえる必要があり、それらを自宅に置いて研究室化するために支援を募りました。
博物館の「一日体験ツアー」をリターンとして計画され、投資を多く集めていました。一方で、趣味に近い研究は投資する気にならないといった意見もあり、参加者の様々な意見に触れることができました。
また、会場からはハエに名前を付ける権利を支援のリターンとしないのか質問がありました。実際にそういった例も過去にあったらしく、50~100万円なら検討されるそうです。
椋川の開発史(鈴木絢女 同志社大学法学部政治学科 准教授)
鈴木さんは、高度経済成長期の拡大造林・木材自由購入化・減反政策などの影響を受け、採算の取れない杉林が広がっている滋賀県高島市の椋川という中山間地を調査されています。椋川のように高度経済成長からマイナスの影響を受けた地域は日本国内に少なくありません。椋川の調査を通じて持続可能な地域社会の在り方を模索し、他の地域にも活かしていきたいと語られていました。現地調査が大切なこの研究では、交通費が高くつきます。この交通費を賄うために支援を募りました。10年後には村があるかどうかも定かではないこの村のためにも、今すぐにでも動き出したいそうです。
会場からは、研究成果が椋川に限らず日本中で応用できることへの期待が聞かれた一方、実際に研究を進めるにあたって多くの人や資金を巻き込む必要があるなど、様々なコメントが出されました。
リターンには椋川農産のコメも登場し、投資を集めていました。
投票結果の発表後いただいた意見のなかで、研究者が支援を募る際には、支援してもらったお金を具体的にどのように使うのかを提示することや、誰にでもわかるように説明の仕方を工夫することも大事だということがわかりました。ほかにも、より多くの市民が研究成果を利用し参加できるような内容だともっと支援をもらいやすくなるのではという意見も聞かれました。
また、全体を通して、リターンの内容も支援額に大きく影響することが見えてきました。リターンの中身については、熊澤さんの発表で見られたように実質的な「物」よりも「体験」型のリターンを好む傾向があるように感じました。(編集注:これは座談会第2部の「市民には科学に関わりたいという気持ちがあるのでは?」という問題提起にもつながっていきます。)
Reported by金岡歩美(アカデミックデイ2015学生スタッフ・京都大学理学部・3回生)