Behind Kyoto University's Research
ドキュメンタリー
Vol.26

CO₂を出さない社会を実現する。「低温プラズマを援⽤したバイオリファイナリー」

エネルギー科学研究科
南 英治 助教

くすのき・125

京都大学創立125周年記念事業の一つとして設立された学内ファンド*「くすのき・125」。このファンドは、既存の価値観にとらわれない自由な発想で、次の125年に向けて「調和した地球社会のビジョン」を自ら描き、その実現に向けて独創的な研究に挑戦する次世代の研究者を3年間支援するというものだ。
*「学内ファンド」とは、京都大学がめざす目標に向けて、京都大学が持つ資金を学内の教職員等に提供する制度のことです。

2020年度に採択されたエネルギー科学研究科の南英治先生の研究テーマは、「低温プラズマを援⽤したバイオリファイナリー」。再生可能エネルギーとして注目されるバイオマスの中でも、大きなポテンシャルを持つ木材。南先生は、化石資源の代わりに木材から燃料や化学物質を作るバイオリファイナリー技術の高度化に挑戦している。木材を新たなエネルギー資源として活用する、その画期的な方法とは? 動画メッセージとインタビューで伺った。

化石資源のかわりとして大きな可能性を持つ木材

南先生は、どのような研究をしておられますか。

「石油、石炭、天然ガスなどの化石資源のかわりに木材を使って、エネルギーや化学物質を生み出す技術を研究しています。化石資源は有限であるだけでなく、利用することで地球温暖化の原因となるCO₂の排出につながることが、地球環境保全の観点から問題視されています。そこで注目されているのが、木材をエネルギーや化学物質に変換する技術。薪や炭にして燃やすといった昔ながらのやり方ではなく、現代の先進国の需要に応えられるよう効率よくエネルギーや化学物質に変換させることが重要です。様々な技術がありますが、私たちが研究しているのは、熱化学的変換と言って、木材を加熱して分解し、水素や一酸化炭素など可燃性のガスを発生させ、それを燃料にして電気を作ったり、ガスから化学物質を作ったりする技術です。水素と一酸化炭素を合成してできる炭化水素は石油の主成分なので、石油と同じように様々な化学物質や燃料を作りだすことができるのです。

熱化学的変換技術の核となるのは、木材を加熱して分解する『熱分解』と呼ばれる反応ですが、複雑すぎるため、この仕組みは長い間ブラックボックスになっていました。私たちの研究室では、河本晴雄教授を中心に、木材を熱分解する過程で起こる反応を分子レベルで解明し、得られた知見をベースに様々な変換技術を研究しています」

木材を化石資源のかわりに使うのは、どのようなメリットがあるからでしょうか。

「樹木は、人の手で水や肥料をあげなくても光合成で成長します。この光合成によって1年間で大気中のCO₂の約1割を吸収して樹体内に蓄え、枯れたら土に還ってCO₂まで分解され、大気中に戻るという循環を行っています。木材からできた燃料であっても、燃やせばCO₂が排出されるのは化石燃料の場合と同じなのですが、そのCO₂はもともと大気中にあったものを樹木が吸収して固定したものなので、CO₂の排出量は実質ゼロになります。このような考え方をカーボンニュートラルと言い、木材は地球にやさしいエネルギー資源と言えます。

また、資源として使える十分な量があることも魅力です。森林は、世界の至るところにありますよね。実は地球上のバイオマスの90%以上が森林に存在していて、その成長量は、世界で1年間に消費している化石資源の4、5倍に相当する量になります。つまり、一部の木材をバイオマスとして利用するだけで、化石資源の代替が十分に果たせるかもしれないのです。

ただ、その特徴を単に喜んでばかりもいられません。樹木が世界中にたくさんあるのは、他の生き物に食べられないからなんです。食べるという行為はその食べ物を『分解する』ということですが、木材の主成分であるセルロースはグルコースという糖が強固に結合しており分解することが難しく、さらにリグニンという消化が難しい成分で覆われているため、多くの生き物は樹木を食べることができません。逆に言えば、樹木はそのように進化して身を守ることで繁栄できたのです。この分解しにくいという性質が木材をエネルギーに変換する上での技術的な難しさにもつながっています。実用化されている技術はありますが、コストやエネルギーの面で効率がよくないなどの問題もあり、現在のところはまだ確立された技術があるとは言えません。それらを解決し、木材を広くエネルギー資源として使えるようにしていくことが求められています」

木材の可能性を語る、南英治先生

「木材を石油にかえる」という言葉に感じた夢

以前から環境問題に関心があって、木材に目を向けて研究をはじめられたのでしょうか。

「環境問題への関心はありましたが、木材を研究しようと思った直接のきっかけになったのは、今所属している研究室の先代の教授、坂志朗名誉教授との出会いです。もともとエネルギー問題に関心があり、高等専門学校から京都大学工学部の電気工学科に編入し、卒論では太陽電池の研究をして、修士課程では太陽電池に使われる透明導電膜の研究をしていました。その後、企業に就職し、エネルギーや環境問題の現状を調査する中で、様々な分野の研究者にインタビューする仕事にも携わりました。そのインタビュー相手の中に、木質バイオマスを研究されていた坂先生がいらっしゃったんです。坂先生はとてもわかりやすい言葉で研究について語ってくださり、なかでも『木材を石油にかえる』という言葉に夢を感じました。そこで、自分もやってみたいと会社を退職し、坂先生の研究室に博士課程の学生として入学することにしました」

まさに、人生を変えたひと言ですね。大きな方向転換に迷いはなかったのですか?

「全くなかったと言えばうそになりますね (笑)。最初は、電気工学専攻の人間が森林科学系の研究室に入りたいと言っても断られるかな、と思ったりもしました。ですが、坂先生から『大丈夫じゃない?』と言われたことが後押しになり、思い切って飛び込みました。研究を始めた当初は、電気工学科で学んだことが木材の研究に役立つことは、残念ながらありませんでした。しかし、木材の熱分解に着目し、望み通りに分解できない原因をいろいろと探るうちに、プラズマの利用可能性に行き着いたのです。プラズマについては後で詳しく説明しますが、電気工学では基礎になる重要な分野の一つなんですね。あくまでも偶然ですが、森林科学系の分野に、かつて身につけた電気工学の知識や経験が生かせることになりました」

木質バイオマスを使ったエネルギー生産技術を実用化したい

それでは、「くすのき・125」に申請された「低温プラズマを援用したバイオリファイナリー」という研究について教えてください。

「まず、『バイオリファイナリー』とは、先ほどお話しした、化石資源から燃料や化学物質を作る仕組み・プロセスを、木材のようなバイオマス(生物由来資源)で置き換える技術分野のことです。その中で私たちがめざしていることの一つは、木材を水素や一酸化炭素など可燃性のガスに変えるガス化という変換技術の確立です。ガス化するには、木材を加熱して分解する熱分解反応を利用すると非常に効率がよいのですが、その制御は難しく、まだまだ様々な課題があります。そこで、メインの工程である熱分解をうまくコントロールして木材のガス化をスムーズに進められるよう、低温プラズマをサブの工程として付け加えることにしました。それが『援用』という言葉の意味です。

少し言葉が難しいと思いますので、まずは、プラズマとは何かからご説明します。
プラズマとは、個体、液体、気体という、物質の3つの状態に続く第4の状態とも言われます。気体の温度を上げたり気体の中で放電させたりすると、気体の分子から電子が飛び出し、電子と正イオンに分かれる電離という現象が起こります。この電子がエネルギーを持って他の分子と衝突すると、新たな電離を起こしたり、ラジカルや励起種と呼ばれる活性な分子を生成したりします。このように電子、正イオン、ラジカルなど、様々な粒子が飛び回っている状態がプラズマです。なかでもラジカルは、普通は2個で1対になって同じ軌道上に収まっている電子が、1個になって対を持たない状態になっている粒子で、化学反応のきっかけになりやすい性質を持ちます。そのため、プラズマ状態にしてラジカルを発生させることで、普通なら進みにくい化学反応を促進させるという技術は、産業界の様々な分野で使われています。

固体、液体、気体に続く物質第4の状態としてのプラズマのイメージ図

プラズマには核融合などものすごく高温の状態のものもありますが、一方で、圧力や放電の状態をコントロールして比較的低温で作り出すプラズマもあります。水が凍るような温度のプラズマを作り出すこともできます。それが低温プラズマです。実は、蛍光灯もその一つ。蛍光灯はあまり熱くないですよね。今回の研究では、こういった低温のプラズマ状態で発生させた水素ラジカルを援用することで、木材の熱分解においてガス化を促進させると同時に、タール(液状物)や煤(すす)などの発生を抑えることがポイントになります。

木材の主成分はセルロースやヘミセルロースという多糖とリグニンという芳香族成分で、それぞれ全く違った分解プロセスをたどりますが、そのプロセスを詳しく研究した結果、どちらに対しても分解反応をコントロールするには水素ラジカルが有望らしいということが分かってきました。例えばセルロースは、熱分解して理想的にガス化するとすべてが水素と一酸化炭素に変わるはずですが、実際にはタールや煤もできて、熱分解炉に溜まったり配管が詰まったりしてしまう問題がありました。このタールや煤の生成を抑えたり、ガス化反応を促進したりするためには、水素ラジカルが有効そうなのです。

低温プラズマの援用による木材のガス化の促進のイメージ図

低温プラズマを使うと、どのくらい熱分解の効率がよくなるのですか。

「実験では、熱分解炉でセルロースを熱し、生成された気体からどれぐらいの水素と一酸化炭素ができたのか、収率を分析します。熱分解するところと生成した気体を受けるところとの中間に低温プラズマを照射したところ、水素と一酸化炭素の収率は、熱分解だけの場合よりも1.5倍程度まで増えました。ガスになる前にタールや煤に変わってしまっていたのを、水素ラジカルによって反応が活発になったことでガスになる量が増えたと考えられます。うまくいけば、タールなどの余分なものを出すことなく、すべてをガスに変換することができるかもしれません。今のところ、低温プラズマは誘電体バリア放電で発生させています。例えば、2つの電極の間に高電圧をかけると放電しますが、電極の間に電流を遮るものが何もないと大電流が流れて高温になります。これに対して、誘電体バリア放電では2つの電極の間をガラスのような誘電体で遮って放電させますが、そうすると大電流になる前に放電が勝手に止まります。ここで電圧の向きを変えてやれば逆方向に放電が起こってまたすぐに止まります。これを高速で繰り返すことによって、低温プラズマを簡単に発生させることができます。単純な仕組みなので低コストですし、消費電力も小さくてすみます。空気清浄機やエアコンのイオン発生にも使われている、身近な放電の1つと言えます」

低温プラズマを使った実験風景(反応管内での誘電体バリア放電の様子)

「くすのき・125」の3年間で、どのように研究を進めていかれるのでしょうか。

「低温プラズマを使うことで意図した反応が起こっていることは突き止められたので、今後はもっと効率よく反応できるよう改良を続けます。さらに、熱分解炉と一体化してプラズマを生成させる機構をどう実装するか、構造的な問題にも取り組んでいくつもりです。減圧することなく大気圧のままで低温プラズマを作るのは難しくありませんが、その工程を熱分解のような高温のプロセスの中に組み入れるには工夫が必要です。どのように組み合わせたらよいのかを、低温プラズマを発生させる方式をどうするかということも含めて技術開発を進めていかなければなりません」

実用化に向けて研究を進めていくということですね。

「実用化といっても、最終的にどのような技術を確立できるのかはまだまだわからないところもありますが、まずは、低温プラズマが木材の分解・反応を引き起こす時に生じる特有の現象をしっかり理解し、こちらが意図した反応や反応制御ができているかを調べていきたいと思っています。もしかしたら、想定もしていなかったような他の現象が見つかれば、それはそれで面白いなと思っています」

研究に取り組む南先生

最後に、バイオマスエネルギーの研究によって、先生がめざしていらっしゃるのはどのような未来なのかをお教えいただけますか。

「『くすのき・125』で125年後の地球社会のビジョンを聞かれましたが、私がめざしているのはCO₂を出さない社会です。日本も含めて多くの国が2050年にカーボンニュートラルを実現することを目標にしているので、本当は125年よりもっとずっと手前に実現しなければならない未来像ですね」

環境問題は、もう待ったなしの状態まで来ています。先生の研究は、バイオリファイナリーの進展にとっても重要なものになりそうですね。

「石油に代表される今の化石資源と同じくらい資源量のあるものは、もう木材しかありません。さらに、化石資源は地中で何億年もかけてできたものですが、木材はせいぜい数十年で再生産されます。化石資源が使えなくなる時代はすぐそこまで来ていますから、その時までにできるだけ、自分たちの研究を使える技術にしていかなければなりませんし、実用化した後もどんどん改善していかなければならないでしょう。そのためにも、技術の基盤となる原理の解明を少しでも進めて、バイオリファイナリー技術に貢献していければと思います」

125年後の地球社会の実現に向けて、南先生が取り組む研究のイメージ図。森林は膨大な量のCO₂を光合成で固定し、同じ量が枯れてCO₂に戻るという炭素循環を担っている。この一部だけでも我々が使えるエネルギーや化学物質に上手く変換できれば、全ての化石資源を置き換えることも夢ではない。

南 英治(みなみ えいじ)

エネルギー科学研究科 助教

博士(エネルギー科学)。京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科修了後、民間シンクタンク研究員を経て、京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了。2012年から現職。専門はバイオマス科学、化学工学、電気電子工学。超臨界流体技術及びプラズマ化学によるバイオリファイナリーシステムの構築をテーマに研究。著書に『リグニン利活用のための最新技術動向』(梅澤俊明監修、シーエムシー出版)などがある。

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