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SPIRITS

モンテカルロ計算における符号問題の解決に向けた基本アルゴリズムの開発と応用

研究スローガン

モンテカルロ計算における符号問題の汎用的解決法の開発

キーワード

モンテカルロ法、符号問題、レフシェッツ・シンブル、焼き戻し法、有限密度量子色力学

研究背景および目的

モンテカルロ計算における符号問題は、物理学に限らず自然科学の様々な分野で現れ、汎用的解決法の確立が切望されています。これまでの研究で、我々の開発した「焼き戻しレフシェッツ・シンブル法」(tempered Lefschetz thimble method: TLT法)は汎用性と高信頼性の両面で有用な方法であることが分かってきました [1]。本研究の目的は、このアルゴリズムをさらに改良して物理学の諸問題に適用することで、これまで符号問題のために進展が停滞している分野を一気に活性化することです。
[1] Parallel tempering algorithm for integration over Lefschetz thimble

成果の要約

TLT法を強相関電子系や有限密度量子色力学の簡単な模型に適用し、いずれの場合でもTLT法が正しい結果を与えることを示しました。また、TLT法の計算アルゴリズムの高効率化にも成功しました。こうした成果により、我々のTLT法は符号問題に対する最も強力な方法の一つとして認められ始めています。研究成果は5本の論文として発表し、(2020年度は新型コロナウイルス感染症のために数が減りましたが)様々な分野の合計7つの国際会議で発表して、素粒子論分野以外の研究者との異分野交流も進みました。

今後の展望

日本発の独創的研究という位置を確定させるためには、TLT法が多くの研究者にとって使いやすいものである必要があります。今後は、アルゴリズムをさらに発展させながら適用範囲を一気に拡大し、符号問題の解決を軸にした大きな学術的流れを作っていきたいと思います。

関連写真・図

元の積分面の変形で得られる3つのレフシェッツ・シンブル。シンブルは位相一定面になっていて、各シンブル上の積分には符号問題はないが、異なるシンブル間には無限大のポテンシャル障壁がある。TLT法では、変形途中の積分面を経由すること(焼き戻し)で、異なるシンブル間で配位が容易に遷移できるようになる
(0+1)次元Thirring模型のカイラル凝縮。TLT法では、焼き戻しにより、符号問題とエルゴード性の問題の両方が解決されて厳密解と一致する結果が得られる

代表者情報

福間将文

代表者氏名:福間将文
所属部局名:理学研究科
自己紹介:東京大学理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。専門は素粒子論。主な研究テーマは場の量子論のダイナミクスの解明と量子重力理論の構築。宇宙の基本法則と初期条件をランダムネスによって説明することに挑戦中。